30億光年先からくる謎の「高速電波バースト」
約157日ごとの活動周期か
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2007年に初めて観測された「高速電波バースト」(FRB:Fast Radio Burst)は千分の数秒というごく短時間だけ強力な電波が放出される突発的な現象で、その発生源は明らかになっていません。高速電波バーストの一部は同じ方向から複数回検出される反復的な現象であることが知られていますが、そのうちの一つ「FRB 121102」には約157日ごとに繰り返される規則的な活動周期があるとする研究成果が発表されています。
■90日間の活動期と67日間の静穏期を繰り返しているか
© sorae 高速電波バースト「FRB 121102」のイメージ図。連星の公転周期によって生じる活動期(左)にはバーストが届くが、静穏期(右)には届かないことを示す(Credit: Kristi Mickaliger)
FRB
121102は「ぎょしゃ座」の方向およそ30億光年先の矮小銀河に発生源があるとみられる高速電波バーストで、2012年11月2日にプエルトリコのアレシボ天文台で初めて検出されました。Kaustubh Rajwade氏(マンチェスター大学)らの研究グループは、イギリスのジョドレルバンク天文台などによるFRB 121102の観測データを分析した結果、約90日間の活動期と約67日間の静穏期を繰り返している可能性が示されたとしています。
当初、高速電波バーストは超新星爆発などによって引き起こされる1回限りの現象と考えられていました。ところが、2016年にFRB 121102がバーストを繰り返していることが確認されたことで、反復を可能とする別の仕組みが関与している可能性が示唆されたものの、規則的な周期で繰り返されていることは最近まで認識されていなかったといいます。
しかし今年の初め、カナダの電波望遠鏡「CHIME」(Canadian Hydrogen Intensity
Mapping Experiment、カナダ水素強度マッピング実験)による観測で、高速電波バースト「FRB
180916.J10158+56」が約16日周期で規則的に繰り返されており、中性子星やブラックホールを含む連星が発生源になっている可能性も考えられるとする研究成果が発表されています。今回の研究グループは、これらの研究結果が正しかった場合、FRB 121102は規則性が確認された2つ目の高速電波バーストになるとしています。
研究グループでは、FRB 121102の発生にもFRB 180916.J10158+56と同様に連星が関与している可能性があるものの、FRB 121102の活動周期は5か月以上と長いことから、天の川銀河や小マゼラン雲にみられる数十日~数百日という幅広い公転周期を持つ大質量X線連星のように、質量の大きなOB型星を含む連星に絞り込まれる可能性があるとしています。また、規則性のある高速電波バーストの発生源としては歳差運動する中性子星も候補にあげられているものの、数か月単位の活動周期を説明するのは難しいとしています。
研究グループは、規則性を示す高速電波バーストを新たに見つけることに加えて、すでに知られているバーストの定期的なモニタリングが欠かせないと指摘。研究に参加したDuncan Lorimer氏(ウエストバージニア大学)は、今回の研究成果について「私たちが高速電波バーストの起源についてほとんど何も知らないことを浮き彫りにしています」とコメントしています。
関連:宇宙からの「高速電波バースト」発信元が判明 30億光年先の矮小銀河
Image Credit: Kristi Mickaliger
Source: マンチェスター大学
文/松村武宏
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太陽探査機「ソーラー・オービター」近日点を通過、初の接近観測実施
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© sorae 太陽探査機「ソーラー・オービター」を描いた想像図(Credit:
ESA/ATG mediala)
欧州宇宙機関(ESA)は、今年の2月に打ち上げられた太陽探査機「ソーラー・オービター」による最初の接近観測が行われたことを発表しました。
2020年6月15日、ソーラー・オービターが太陽から約7700万km(約0.5天文単位、地球から太陽までの距離のおよそ半分)の距離で近日点(太陽に最も近づく軌道上の一点)を通過するのにあわせて、撮像装置などのテストを兼ねた観測が実施されました。プロジェクトサイエンティストのDaniel Müller氏は、ソーラー・オービターの紫外線撮像装置はNASAの太陽観測衛星「ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)」と同じ空間分解能を備えるものの、今回の観測は太陽までの距離がSDOの半分だったことから、SDOと比べて2倍の解像度で撮影することができたとしています。
現在ソーラー・オービターは地球から約1億3400万km離れたところを飛行しています。Müller氏によると、観測データをダウンロードできるのが1日あたり9時間に限られることもあり、すべてのデータをダウンロードするには1週間ほどかかるようです。データの処理を経て、7月中旬頃に今回撮影された画像が公開される予定とされています。
今年の2月10日に打ち上げられたソーラー・オービターは惑星の重力を利用して軌道を変えるスイングバイを何度も行うことが計画されています。現在は今年の12月に実施される1回目の金星スイングバイに向けて飛行を続けており、その後は2021年8月に2回目の金星スイングバイを、同年11月には唯一の地球スイングバイを行います。幾度かのスイングバイを経たソーラー・オービターは最接近時に太陽から4200万km(約0.28天文単位、地球から太陽までの距離のおよそ3分の1弱)まで近づく予定で、NASAが運用する太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」などとも連携して観測を行います。また、太陽の北極や南極を観測しやすくするために、軌道を最大で33度まで傾けることも計画されています。
Image Credit: ESA/ATG medialab
Source: ESA
文/松村武宏
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